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広島地方裁判所 昭和41年(ワ)478号 判決 1968年11月07日

原告 脇本与吉

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 高木尊之

被告 山根喜美子

右訴訟代理人弁護士 小中貞夫

主文

一、訴外山根通伸と被告との間に昭和三九年七月二九日別紙第一目録記載の土地及び建物につき成立した売買契約は、これを取消す。

二、被告は、原告等に対し、別紙第二目録記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めた。

原告等訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告等は夫婦、亡脇本佐千枝はその三女であったが、佐千枝は昭和三九年二月六日午後一〇時五〇分頃、広島市宇品町一四丁目山村製作所前附近道路を通行中、訴外山根通伸(以下通伸という)の過失により同人の運転する普通乗用自動車の前部を自己の背部に激突させられ即死した。よって、右不法行為により、原告等は通伸に対し金二五〇万余円の損害賠償債権を取得した。

二、通伸は、別紙第一目録記載の不動産を所有するのみで他に資産を有しなかったところ、債権者を害する意思で、自己の義姉(亡兄・敏夫の妻)である被告に対し、昭和三九年七月二九日右不動産を売買譲渡し、同年七月三一日被告に対し別紙第二目録の所有権移転登記手続をなした。

三、通伸の右売買譲渡は詐害行為であるから、原告らは右売買契約の取消及び右所有権移転登記の抹消を求める。

被告訴訟代理人は、答弁及び主張として次のとおり述べた。

請求原因第一項記載の事実は不知。同第二項中、通伸が被告の亡夫・敏夫の弟で、被告が本件土地建物につき主張の如き登記を取得したことは認めるが、その余の事実は否認する。

一、本件土地建物は、昭和二九年四月に広島県住宅供給公社より訴外八万年発動機株式会社が分譲をうけたのであるが、個人を対象に分譲せられたため右会社は止むなく、通伸名義をもって買受申込をしたものである。従って本件土地建物の所有者は八万年発動機株式会社である。被告は昭和三七年八月頃、通伸名義の本件土地建物を訴外会社から譲渡をうけてその所有権を取得し、かつ、通伸の承諾をえて、同人から所有権移転登記を得たものである。

右のとおり、本件土地建物の真正な所有者は訴外八万年発動機株式会社であったのであるから、これを通伸の財産と目し、所有名義の変更をもって、詐害行為とする原告の主張は失当である。

二、仮りに、通伸の所有であったとしても、被告は昭和三七年八月頃に、通伸から本件土地建物の譲渡をうけてその所有者になっていたものであり、本件行為は被告主張の債権発生前の譲渡行為であるから、詐害行為とはならない。

証拠≪省略≫

理由

一、本件土地建物につき、通伸から同人の亡兄・敏夫の妻である被告に対し、別紙第二目録記載の所有権移転登記手続がなされていることについては当事者間に争がない。

二、≪証拠省略≫によれば原告主張一の事実が認められ、右事実によれば、原告らが通伸に対して損害賠償債権を取得した日時は、昭和三九年二月六日である。

三、≪証拠省略≫及び当事者間に争いのない前記事実を綜合すると、本件土地建物は昭和二九年四月一日通伸が、広島県住宅供給公社より分譲を受けて所有していたものであるが、昭和三九年七月二九日(この時点に於て、すでに前認定のとおり原告等の通伸に対する損害賠償債権は発生していた。)に亡兄・敏夫の妻である被告に対し、代金七九五、八〇〇円でこれを売買譲渡し、同月三一日に別紙第二目録記載の所有権移転登記手続を完了したことが認められる。

証人山根通伸、三木実や被告本人は、こもごも、本件土地建物は訴外八万年発動機株式会社が通伸名義で昭和二九年四月に広島県住宅供給公社から買得し、昭和三七年八月ころ右訴外会社から被告に譲渡されたものであるとの趣旨の供述をするが、右供述を裏付ける書証等は全く提出されていないことや右各証言及び被告本人訊問の結果うかがえる次の事実即ち、広島県住宅供給公社は個人を対象に土地建物を分譲していて法人はこれを取得し得ない上、分譲代金の割賦払の完済がない限り転売を許さぬ取扱いになっていたところ、本件土地建物の分譲代金の割賦金の完済があったのが昭和三九年七月であった事実や≪証拠省略≫によって認められる、昭和三九年七月二九日づけで売主を通伸、買主を被告とする本件土地建物の売渡証書が作成されていること等を合わせ考慮すると、前記各供述をそのまま信用するには、ちゅうちょを感ずるほかないから、右各供述は採用できないし、他に前記認定をくつがえすに足る証拠はない。

四、証人山根通伸の証言によると、同人は本件土地建物以外に財産を有していなかったことが認められるので、右譲渡当時同人は原告を詐害する意思を有していたものであることが推認されるから、譲受人たる被告に詐害の意思がなかったとの主張立証のない本件では、本件売買譲渡行為は債権者たる原告を詐害する目的で行われたものと言わざるをえない。

五、ちなみに附言する。

(一)  仮に、前記各供述のように、訴外会社が公社から本件土地建物を通伸名義で買受け(ただし、既述のように、公社は法人に対し分譲しないから、一たん、通伸が公社から買得すると同時にこれを外訴会社に譲渡したものとする外ない。)たものとしても、登記は公社から通伸宛移転したのみで、通伸から訴外会社への移転登記がないから、通伸の右所有権喪失は原告に対しては対抗し得ない関係にあり、従って原告に対する関係では依然、通伸のもとに所有権があったものとして取扱わざるを得ない関係にある。けだし、原告は詐害行為取消債権者なるところ、詐害行為取消債権者は、債務者が無資力で他に財産がないため、本件土地建物を債務者である通伸のもとに回復し、これに対し強制執行をなし、これから債権の弁済をうける外ない者であるから、単に金銭債権を有するにすぎない通常の一般債権者のように、債務者の一般財産から弁済をうけうるのと異なり、特定の本件土地建物に密着した債権者というべく(一般の金銭債権者が仮差押、差押をした場合よりも、むしろ、密着性が大であるというべきである。)、従って、民法第一七七条にいう第三者に該当するものと解すべく、このことは詐害行為取消債権者が訴を提起すると否とにかかわらないものと解するのが相当であるからである。

(二)  また仮りに被告主張の如く、本件土地建物の通伸から被告への譲渡が、昭和三七年八月ころ行われていたとしても、その譲渡につき対抗要件たる登記を経由しないかぎり、前説示の如く民法第一七七条の第三者に該当する詐害行為取消債権者に対しては、所有権移転を主張しえない関係にあるから、詐害行為か否かは右登記の時を基準として、換言すれば登記の時に所有権移転行為があったものとして、判断すべきものと解するのが相当である。けだし、登記なきかぎり、債権者は、依然として通伸に所有権があるものとして、これを仮差押、差押等をなし、もって目的を達しうるのであり、あえて詐害行為取消を請求するの必要がない、というよりは、むしろ詐害行為は未だ存しないと解しうるからである。従って、本件土地建物につき通伸から被告への所有権移転登記のなされる以前に原告の債権が発生していた本件においては、詐害行為取消請求の要件に欠けるところはないものというべきである(結論同旨、東京地判昭和四一年八月一九日、判時四六八号五〇頁参照)。

六、結論

以上の次第で、通伸と被告との間になされた本件土地建物の売買譲渡契約は、正に民法第四二四条の詐害行為に該当するから之を取消すべきであり、したがって被告はその所有権移転登記の抹消登記手続をなすべき義務があるものと言うべきである。よって、之を求める原告等の被告に対する本訴請求は、すべて理由があるから之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 荻田健治郎)

<以下省略>

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